【印刷物から探る疫病と鬼】医療従事者は鬼殺隊?!

コラム

古い印刷物に興味を持つようになり、ほとんど廃品のような印刷物や出版物を、本棚の端に置くようになりました。
そのなかのひとつに、1915(大正4)年に出版された「中學校用國語教科書」があります。島崎藤村や森鴎外などの短文が並ぶなか、医学者・医史学者の富士川游が書いた「疫病」という短文が掲載されていました。

冒頭には「疫病の名は日本書記崇神すじん天皇紀に出づ」。

古来より疫病に苦しめられた、日本の感染症の歴史が述べられています。そこに登場するのが疫鬼えききという言葉。疫病神とほぼ同じ意味で、悪性の伝染病を流行らせる悪神あくじんのことを「疫鬼」と表現しています。

疫病といえば、コロナ禍の現在。2020年は、大正時代を舞台に鬼と鬼狩りたちとの戦いを描いた漫画『鬼滅の刃』が大流行しました。

ならば、疫病と鬼について検証しないわけにはいかない、ということで探ってみると、やはり疫病と鬼は、古くから深いつながりがありました。

疫病と鬼のつながり

もともと目に見えない存在である病気のなかでも、特に重い疫病は、もののけや怨霊、悪鬼あっきによるものと思われていました。ウイルスのみならず、細菌の存在も知らない時代であれば当然かもしれません。

実際に古い絵巻物には、さまざまな鬼の姿をした疫鬼たちが描かれ、疫病神といった存在が、天然痘や麻疹、疱瘡、疫痢などの疫病をもたらすという民間信仰につながっていたようです。
そして、疫病を祓うために、さまざまな民俗行事や祭礼、風習が行われるようになりました。

最も有名なものが、鬼を追い払う行事追儺ついなです。
追儺は平安時代の頃から大晦日に行われた年中行事で、疫病や疫神に見立てた鬼を祓う儀式。後に各季節の始まりの日(立春、立夏、立秋、立冬)の前日の季節を分ける日、「節分」となり、江戸時代以降に現在のように立春の前日の行事となりました。

節分といえば豆まきですが、豆は語呂合わせで「魔目」、魔を滅する「魔滅」に通じるといわれています。

疫病の多くは外国からもたらされたものという考えが反映されたため、「鬼は外」という鬼を外へ追い出す表現が使われた、という説もあります。
また、節分の魔除けとして、柊の小枝に鰯の頭を刺し門口に飾る「ひいらぎいわし」の風習は、鬼を追い払うだけでなく、疫病を避ける目的があったものと考えられています。

古来より人類を脅かし続けた疫病という鬼。お祓いで撲滅できないことを理解している私たちは、コロナと共存し、十分な感染対策を行っていくことが大切です。
鬼殺隊のようにウイルスと闘う医療従事者の方々には、ほんとうに感謝の気持ちしかありません。

 


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