作家の三上延が2011(平成23)年に発表した人気作、鎌倉を舞台とした古書ミステリー小説の「ビブリア古書堂の事件手帖」で起こる事件の中で鍵を握るのが古書の巻末にある「奥付」。
古書マニアが本のタイトルの次に気にするのがこの「奥付」で、書名・発行年月日・版および刷数・著者名・発行所名・印刷所名などを記載されています。旧来の表記は「奥附」でしたが、後に「奥付」と表記されるようになりました。
「奥付」は週刊誌などの雑誌類にも存在しますし、当社の印刷物の中にも頁ものの場合「奥付」を設けるケースも多々あります。書籍や冊子だけでなく、パンフレットやカタログなどの裏表紙等に掲載する発行元などについても「奥付」と呼ぶこともあります。今号はその「奥付」についての豆知識を紐解いてみたいと思います。
奥付の歴史
「奥付」の歴史を辿ると1722(享保7)年まで遡ります。8代将軍徳川吉宗が主導した「享保の改革」の一環として、南町奉行所の名奉行として知られる大岡忠相(おおおか ただすけ)、通称大岡越前が発した「新作書籍出板之儀に付触書」に由来します。「何書物によらず此以降新板之物、作者并板元之実名、奥書に為致可申候事」とあり、どんな書物も新しく出すときは作者や版元の実名を奥書(奥付)に表記するよう定められました。
これにより、当時横行していた海賊版が統制され、版元書店の出版権が明確になりました。
出生証明書としての奥付
明治に入り、1875(明治8)年 偽版の本が出まわり所在を明らかにするのに「出版条例」を制定。1893(明治26)年の出版法では発行者の氏名・住所、年月日、印刷所の名称・住所、印刷の年月日の記載が義務付けられました。
その後、日本国憲法の制定により、1949(昭和24)年に出版法が廃止され、以後は教科用図書以外の書物については特に「奥付」の記載に義務はないものの、現在も慣例として巻末の「奥付」が設けられています。外国ではほとんど見られない、日本特有のものですが、出版物を世に出すための出生証明書のようなものですから、出版物を大切に扱うという気持ちとともに、これからもずっと続けられていくと思います。