印刷用語の「見当」とは
印刷用語として使われている言葉に「見当」があります。
多色印刷においてそれぞれの色版の重ね合わせる際の位置の精度、両面印刷においての表裏の位置の精度を意味し、「見当を合わせる」という使い方をします。各版の刷り位置が正確に揃っていないと、意図した色や絵柄が再現されなかったり、製本の際に位置がずれたりするため、「見当」は印刷物のできあがりを左右する重要なものです。
英語では「レジスター(Register)」と呼ばれていますが、事務機器のレジスターなど別の意味があるからなのか、日本ではあまり浸透していません。見当を合わせるための目印として版下の天地左右の中央や仕上がりサイズのアタリを示すために「トンボ」が用いられますが、英語で「レジスターマーク(Register mark)」と呼ばれています。
一般的な言葉としての「見当」は、おおよその見込みや、予想、目安などの意味で使われていますが、もともとは日本の版画文化において欠かせない重要な役目を果たしてきた技術のこと。しかも、その語源をたどると、江戸時代の天才マルチクリエーターとの関りもあるようで、その起源について遡ってみました。
印刷用語「見当」の起源は
室町時代、浮世を描いた風俗画として登場した浮世絵が、江戸時代には「墨摺絵(すみずりえ)」と呼ばれる木版の単色刷りとなり、1700年代には複数版の多色作品が登場。すると、色がずれないようにするための画期的な技術が開発されます。1765(明和2)年頃、浮世絵師の鈴木春信が浮世絵版画の多色刷りに成功。絹織物の錦のように美しいということから「錦絵」と呼ばれるようになります。
その多色刷りを可能にしたのが「見当」の発明。版木の右下隅と中央下の2か所に彫ったカギ状の印のことを「見当」と呼び、そこに紙の端をきちんと合わせ、何色刷り重ねても色がずれないようにすることに成功しました。
この浮世絵の改革にプロデューサーとして力を貸したのが、天才発明家の平賀源内だといわれています。電気を起こすエレキテルを復元し、江戸で大ブームを起こした人として知られていますが、本草学者、地質学者、医者、戯作者、浄瑠璃作者、俳人、発明家であり、その変幻自在な多才ぶりから「日本のダヴィンチ」ともいわれています。「土用の丑の日にうなぎを食べる」という、うなぎ屋の販促に関わるなど、元祖コピーライターとしても活躍したとされる源内は、自由にやりたいことをやり遂げる好奇心の塊のような人。プロデューサー的な役割で浮世絵の改革に携わっていたという説も何となくうなずけます。
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