秋近し、トンボの話 といっても昆虫ではなく印刷用語の話

デジタル時代となった今から思えばかなりの昔話ですが、アナログの時代の印刷会社には、版下職人的な人間が必ず何人かいました。その当時の職人が詠んだ俳句にこんなものがありました。
秋隣り 烏の口で 蜻蛉引く
「烏の口」は、当時版下制作に欠かせない道具であった烏口という筆記用具で、「蜻蛉引く」はこちらも版下作業に欠かせなかった「トンボ」を引く作業のことです。
印刷に必要なトンボ
ご存知の方も多いと思いますが、「トンボ」とは印刷物を作成する際に、仕上がりサイズに断裁するための位置や、多色刷りの見当合わせのため、版下の天地・左右の中央と四隅などに付ける目印のこと。特に多色刷りの場合は、各色をそれぞれ重ねて印刷物にしますが、重ねるときに位置がズレないように合わせる目安としてトンボは重要な役割を与えられていました。
一般的に天地・左右の中央にセンタートンボ、仕上がりサイズの四隅に角トンボ(コーナートンボ・裁ちトンボ)、この他、印刷物の形状に応じて折りトンボなどを設ける場合もあります。角トンボは、裁ち落としとするために3mm程度の「ドブ」と呼ばれる塗り足し幅を示す2重線になっていて、内側を内トンボ、外側を外トンボと呼んでいます。
トンボは手書きからデジタル化へ
トンボはもちろん版下1件ずつ手書きで引いていましたが、ある時から透明の「トンボシール」というものが使用されるようになり、四隅とセンターに貼るだけでOKというのは当時としては画期的でした。
やがて版下作業も機械化されると、仕上がりサイズに応じて数値入力で自動作成することが可能に。そしてコンピュータの普及とともに作業がDTP化されるとトンボ作成はソフトウェアの中の1コマンドに過ぎなくなりました。英語では「trim marks」、特に断裁用のトンボは「crop marks」、またはセンタートンボは「register mark」とも呼ばれているようです。
なぜ「トンボ」?
肝心な「トンボ」の由来ですが、センタートンボが十字形をしており、語源はこの形がトンボに似ていることから。因みに、クレープを作る時に使うあのT字形の道具やグラウンド整備に使う道具も「トンボ」と称されているようで、意外とイージーなネーミングがずっと浸透している事例の多いことを改めて実感しました。