「筆耕」とは?
皆さんは「筆耕(読み方:ひっこう)」という言葉をご存じですか?
筆耕とは、筆で文字を書いて報酬を得ることや、それを仕事にしている人のことをいいます。
印刷会社では、賞状や卒業証書などの毛筆の文字を必要とする場合や、宛名書きが必要なお仕事で筆耕の需要があります。
しかしこの「筆耕」という言葉。
「筆で耕す」と書きますが、なぜこのような字になっているのでしょうか?
今回は漢字の由来も含めて、「筆耕」に関する歴史を紐解いていこうと思います。
「筆耕」ってどんな仕事?
東京五輪閉会式のクライマックスを飾った『星めぐりの歌』。
『雨ニモマケズ』や『銀河鉄道の夜』などの代表作で知られる詩人、童話作家の宮沢賢治が作詞作曲した曲ですが、100年前の1921(大正10)年頃に作られた作品といわれています。
ちょうど賢治が岩手県花巻から上京し、東京生活を送っていた時期と重なります。
100年前の東京で賢治が関わっていた仕事が、謄写印刷の「筆耕」です。
謄写印刷は73年前の当社の原点でもあり、創業者の出発点も筆耕という技術の習得だったと伝え聞いています。
若い層では知らない人が増えていると思われますが、謄写印刷は孔版印刷の一種で、トーマス・エジソンが開発した「ミメオグラフ」を1984(明治27)年に発明家の堀井新次郎が日本に合うように改良したもの。
「ガリ版」の愛称とともに明治・大正・昭和にわたって情報伝達文化の一翼を担いました。
謄写印刷の筆耕とは「ガリを切る」、あるいは「原紙を切る」と呼ばれる製版作業で、印刷用の版を作る技術です。
「ヤスリ板」と称する台の上に「ロウ原紙」と呼ばれる特殊紙を載せ、先端が鉄製の筆記具「鉄筆」で文字を刻む作業のこと。
単に文字を書くということではなく、一文字一文字読みやすくきれいに仕上げる技が求められました。
「ガリ版」は筆耕の際の「ガリガリ」という擬音から呼ばれたものです。
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謄写印刷は1960年代後半に衰退しましたが、筆耕という作業はプロフェッショナルな実用書道として現在も残っています。
冒頭でも触れたように、賞状や卒業証書などの名前部分は筆耕ですし、熨斗を扱うお店や御朱印帳を受け付けている神社やお寺などでも筆耕作業があります。
ホテルでは手書きで招待状の宛名や席札を用意することもあるため、筆耕室を備えているところもあります。
「筆耕」という言葉の意味
そもそも筆耕という言葉はどういう意味なのか。
「筆耕硯田」という古い言葉があり、農民が田を耕すように「筆で硯の田を耕す」といった意味があるようです。
ルーツは飛鳥時代や奈良時代、仏教の教えを伝える経典を書写した「写経生」と称する仕事。
従事する人は読みやすく美しい文字を書くことに長けていました。
江戸時代に大衆文化としての木版印刷が開花し出版物が盛んになると、写経生のように筆による清書が必要となり、版下文字の書き手が重要な役割を果たすようになりました。
この頃に、筆耕という職名が用いられるようになったといわれています。
『東海道中膝栗毛』の作者である十返舎一九のように、文章を書くだけでなく、挿絵も描きながら筆耕もこなすような多彩な作者も登場しました。
わが国最初の職業作家と称される十返舎一九と国民的作家の宮沢賢治。
2人のマルチクリエイターは、毛筆と鉄筆の違いがあるものの、筆耕という共通する技を身に付けていたのでした。
いかがでしたでしょうか?
当社では、現在も筆耕のご相談を承っております。
賞状や卒業証書のお名前、招待状の宛名など、筆耕のご希望がございましたら、こちらからお気軽にご連絡ください。
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