ウィリアム・モリスをご存知ですか?
19世紀のイギリスで最も傑出した芸術家であり詩人、デザイナーでもあり、「モダンデザインの父」と称された人です。
芸術の他にも社会主義運動など、多方面で精力的に活動し、それぞれの分野で大きな業績を挙げました。イギリスの産業革命後の機械化による大量生産と職人軽視の時代の中で、装飾芸術の分野で手仕事の重要性を強く訴えたのもこの人。その実践として壁紙、テキスタイル、ステンドグラス、織物、タペストリー、刺繍などさまざまなデザインを手がけ、少なくとも装飾芸術の13の分野で大きな成果をあげたといわれています。
今も身近に残るデザイン
図案に共通するモチーフは自然。花、木、虫などを美しくデフォルメし、フランスのアール・ヌーヴォーの影響を感じさせる図案が彼の特徴でした。
19世紀に活躍した人なので「…でした」とついつい過去形になりましたが、モリスがデザインしたカーテンやタペストリー、壁紙、手工芸品などは、今なお女性を中心にかなり高い人気を誇っています。
印刷物とモリスのデザイン
そんなウィリアム・モリスは、本の造本にも造詣が深く、豪華な私家本を多く残しています。そこで生まれたのが「モリスの法則」。
見開きをひとつの単位にしてページデザインを考えるときの版面処理の方法。
文字が配置される部分を「版面」といいますが、「モリスの法則」とは、版面の外のマージン(余白)のスペースをせまいほうから、
①のど(内側)、
②天(上)、
③小口(外側)、
④地(下)
と、この順番で広げてゆきなさい、というものです。「のどのマージンを1とすれば、天1.2、小口1.44、地1.73の比率」というのが「モリスの法則」。
古典的な手書きのカリグラフィーの時代から、活字、写植を経てDTPの時代へと移りましたが、「モリスの法則」は時を隔てて、電子出版の時代にも、装丁の基本のように残っています。