オリンピック開会式で注目された「フキダシ」
コロナ禍で開催された東京2020オリンピック。
7月23日に行われた開会式では、各国選手団入場時の演出に注目が集まりました。
日本のポップカルチャーを用いた演出ということでBGMにゲーム音楽を使用。
入場行進では国名を記したプラカードに、漫画の技法として使われる「集中線」と「フキダシ」がデザインされていました。
ご存じのように、登場人物の台詞を口から吹き出した形に囲ったものが「フキダシ」。
今や世界共通語として「MANGA」が定着し始めていますが、残念ながらフキダシの起源は日本にあらず。
以前漫画の歴史を取り上げましたが、今回はフキダシに焦点を絞って考察してみました。
過去の記事はこちら▼
「フキダシ」の起源
人物が発する言葉を絵のなかに描き込む手法は、古代まで遡り、世界中のさまざまな壁画や絵画、版画、あるいは印刷物などにみられます。
しかし、現代的な意味でのコマ割りストーリー漫画の祖は、1837年にイギリスで木版印刷によって出版されたロドルフ・テプフェールの『ヴィユ・ボワ氏物語』といわれています。
さらに、台詞にフキダシを加えた世界初の漫画は、1896(明治29)年にアメリカの新聞で連載が開始されたR・F・アウトコールトの『イエロー・キッド』だといわれています。
日本での「フキダシ」のはじまり
日本にフキダシを用いた漫画が登場するのは1923(大正12)年。
アメリカのジョージ・マクナマスの4コマ漫画『ジッグズとマギー』の翻訳版『親爺教育』が、この年に創刊された「アサヒグラフ」に掲載されました。
日本の漫画家による最初のフキダシ付き漫画は、同じ年に同誌に連載され、後に朝日新聞に連載された織田小星作、樺島勝一画の『正ちゃんの冒険』でした。
こちらはイギリスの新聞に連載されていた『ピップ・スクウィーク&ウィルフレッド』を意識して作られたもの。
本家の漫画に登場するペンギンをリスに変え、主人公の子どもと相棒のリスとの物語は、子どもから大人まで人気を博しました。
英語では「スピーチ・バルーン」と呼ばれたフキダシが、どの時点でそう呼ばれ始めたのかは不明ですが、1952(昭和27)年に雑誌の「新女苑」に掲載された『のらくろ』の作者、田河水泡と弟子で『サザエさん』の作者、長谷川町子との対談にフキダシについてのやりとりがありました。
長谷川から「先生がお描きになるものには吹き出しの会話が多いですね」と聞かれた際、当時その言葉を知らなかった記者にフキダシの意味を問われ田河は「人物がしゃべっている言葉をまるく囲うでしょう、それを吹き出しと言う」と答えています。
日本の漫画文化は時代とともに大きく変化し、漫画の表現方法としてのフキダシも進化しました。
喜怒哀楽や心理的な状況、声の強弱などによってフキダシの表情やフォルムを変えることを一般化させた先駆者といえば、漫画の神様と称される手塚治虫の名を挙げることに異存はないと思いますが、いかがでしょうか。
そして本日11月3日は「文化の日」であるとともに「まんがの日」。さらに、手塚治虫の誕生日でもあります。
今日は一冊、漫画を読んでみてもいいかもしれませんね。
〈この記事を読んだ方にオススメ!〉