野毛印刷社で働く社員一人ひとりの「仕事観」や「こだわり」に焦点を当て、その原動力を紐解く本シリーズ。
今回は、制作グループを率いる大林に話を聞きました。
制作手法の中でも効率の象徴ともいえる「自動組版」のスペシャリストである一方で、一文字単位の「カーニング(文字間隔の調整)」にも妥協を許さない大林。効率を極める立場にありながら、細部にもこだわる理由とは――。
1,000箇所の自動化と、1箇所のこだわり

クロスメディア制作課 係長 大林
――はじめに、大林さんの仕事内容を教えてください。
大林:メインはDTPソフトを使ったレイアウトデザインです。最近だと、飲食店のポスターやチラシ、POPなどを多く手がけています。
――レイアウトをする上で気を付けていることはありますか?
大林:一番は、「お客さまの伝えたいことが、すぐ伝わるレイアウトになっているか」ですね。
お客さまからの依頼はメールで頂くこともあれば、対面での打合せもあります。メールは隅々まで読み込み、足りない情報があればこちらから質問します。まずはお客さまの意図を正確に理解することを心がけています。
――コミュニケーション以外でのこだわりはありますか?
大林:これまで仲間たちからさまざまなアドバイスをもらいましたが、その中で一番意識しているのは「細部の揃え」ですね。“そこに神は宿る”じゃないけど、特に気を付けています。
例えば、文字と画像の頭が揃っているか、文字の間隔が美しく整っているか。一見するとわずかな差ですが、全体の印象を大きく左右するのでかなり気を付けています。
――一方で大林さんは、数百ページ分のデータを一瞬で流し込む「自動組版」も得意とされていますよね。
大林:はい。「自動組版」は、文字や画像を一定のレイアウトに自動で配置する制作手法です。本来であれば1,000箇所以上のコピー&ペーストが必要な作業も、設計次第で一気に完了させることができます。カタログや冊子制作では、この自動組版を用いて効率的に取り組んできました。
――効率を追い求める「自動組版」と、文字間隔を調整する細かな作業は相反するもののように思えます。
大林:まったくその通りです。それでも、文字の「1」と「2」の間を詰めたり、ひらがなと漢字のバランスを整えるためにキーボードをポチポチ叩く作業はやめられません。
今の時代、ある意味究極の非効率と言えるかもしれませんが、その「わざわざやる」作業にこそ、プロとアマチュアの差が出ると思っています。

意味のある「非効率」が信頼を生む
――なぜ、そこまで非効率な作業にこだわるのでしょうか?
大林:効率だけを追い求めて細部を詰めないと、どうしてもどこかに「野暮ったさ」が残るんです。
入社直後、学習塾の試験問題の制作を担当しました。複雑な図形を正確な比率で描き直したり、大問がページをまたがないように数ミリ単位で行間を調整したり……。当時は今よりPCのスペックも低くて本当に時間がかかりましたが、その丁寧な姿勢がお客さまに評価され、長いお付き合いに繋がったと感じています。
この経験から、プロとして成果物の価値を高めるためには、時には効率度外視で向き合うことも必要だと思っています。
――「効率」と「非効率」を使い分けているということですね。
大林:そうですね。情報の重要度合いを見て「ここは標準設定のままでいい」と判断することもありますが、人の目を引くタイトルや、ブランドの顔になるポスターは別です。
「この文字は、形として美しく見えているか?」
そう自問自答しながら、時間をかけて調整しています。
デザインの教科書にも「調整しなさい」とは書いてあるけど、正解はなくて。だから現場で誰かに指摘されて直す、というのを繰り返して、自分なりの基準ができてきた感じです。

原点は「日本語教師」。文字へのこだわりが生まれた経験
――大林さんは、はじめからDTPオペレーターとしてキャリアをスタートされたのでしょうか?
大林:いえ、大学卒業後は日本語学校の教師として働いていました。
――そうなんですね。少し意外です。
大林:大学は国文学科で、もともと小説が好きで。卒業後、日本語教師になるために一年間専門的に勉強しました。日本語が体系的に分かってくると「面白いな」と思えたし、そこで日本語が好きになっていきました。
本は好きで、今でもよく読みます。特に、町田康さんのパンクな文体や、坂口安吾の実験的な擬音の使い方とかが好きで、ストーリーだけでなく「文字そのものの魅力」を無意識に追っているように感じます。
音楽はヒップホップが好きで、大学の時に初めてRHYMESTERを聴いたときは衝撃を受けました。リリック(歌詞)がかっこいいなって。今でも共感できる言葉がたくさんありますね。
――お話を伺っていると、一貫して「文字」や「言葉」がお好きなんですね。
大林:そうですね。野毛印刷に入社したのも、教師時代に試験問題を作っていたことがきっかけでした。今も文字にこだわりがあるのは、その経験があったからだと思います。
野毛印刷で誇りに思える仕事を
――大林さんにとって、野毛印刷はどんな会社ですか?また、今後どう働いていきたいですか?
大林:野毛印刷は効率だけじゃなく、「こだわり」を受け止める度量のある会社だと思います。だからこそ、日常で野毛印刷が手がけた販促物を見て、「これ、うちで作ったんだよな」と誇りに思える仕事をしていきたい。
こだわりを持って仕事に向き合う会社が横浜にはあるんだよ、ということを、いろんな人に知ってもらえたらと思います。

【インタビューを終えて】
「タイパ(タイムパフォーマンス)」が重視される現代において、大林の語る「わざわざやる」作業は、無駄に映るかもしれません。
ですが、あらゆることが自動化できる時代だからこそ、人が手を加え、こだわることに意味があります。
大林が社内外問わず多くの人から信頼される理由は、そんな仕事の姿勢からくることが分かりました。
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