「明朝体がダサい」と不満の声
一昨年の3月に開業した、JR山手線と京浜東北線の新駅「高輪ゲートウェイ駅」。
折り紙をモチーフにした斬新的なデザインや、AIを活用したサービスなどの評判が良いなかで、駅看板に使われた駅名表示に不満の声が多く寄せられました。
使われた書体は「明朝体」。
駅看板の多くに使われているゴシック系フォントでなかったことから、「見づらい」「古くさい」「ダサい」という声が沸騰しました。
日本語の書体は、「明朝体」「ゴシック体」「筆書体」「デザイン書体」に大きく分けられますが、最近はインターネットやスマートフォンで見慣れているゴシック系フォントを支持する人が圧倒的に多いような気もします。
それならば、ということで、あえて「明朝体」に光をあててみようと思います。
明朝体の歴史
ご存じのように、横線と縦線の太さがほぼ同じ幅のゴシック体に対して、明朝体は横線に対して縦線が太く、横線の右端、曲り角に「ウロコ」と呼ばれる三角形の山がある書体。
中国の明の時代の木版印刷用に登場したために「明朝体」と称されていますが、もともとはキリスト教の布教などで中国進出を狙ったヨーロッパで開発されたとされ、その手本となったのが欧文印刷で一般的な「ローマン体」といわれています。
ローマン体は、明朝体のように横線、縦線の幅の差が大きく、線の端にアクセント的な「セリフ(Serif)」が付いています。
欧文書体も日本のゴシック体と明朝体のように、先端の装飾の有り無しで「セリフ体」と「サンセリフ体」に分かれますが、セリフ体は古代ローマ時代の石刻文字を起源とするローマン体。
明朝体の起源も、もとをたどれば古代ローマ時代といえるかもしれません。
明朝体が日本に伝わったのは明や清の時代の仏典によってですが、活字としての歴史は活版印刷の先駆者・本木昌造の活版伝習所以降とされています。
明治時代には新聞などの印刷に常用されるようになり、「築地明朝体」や「秀英明朝体」が誕生。
大正時代には岩田母型製造所の「イワタ新聞書体」が多くの新聞社で採用されました。
昭和に入って写植の時代になると、写研の「石井明朝体」が出現。
縦線を極端に太くする書体など明朝体のファミリー化が進み、さらにDTPの時代へと、トラディショナルな書体である明朝体の進化は続き、今もさまざまな書体が使用されています。
明朝体は必要不可欠な書体
そんな明朝体ですが、長文を読む際の文字の可読性を特徴とする書体として、教科書以外の書籍や新聞の本文に使用され続けています。
駅看板やサインのように視認性重視であればゴシック体ということになりますが、本文以外でも高級感、大人っぽさ、繊細さ、優雅さ、上品さ、賢明さ、真面目さなどを出そうとするなら明朝体を選ぶケースが多いです。
デザイナーの立場で考えると、フォント選びはデザインコンセプトやコピーの語り口によって決めるといった印象が強く、常に受け手側を意識しながらも、明朝体は必要不可欠な書体であることは間違いないでしょう。
では、フォントでどれくらいコピーの印象が変わるのか。
それはデザイナーが執筆した、こちらの記事をご覧ください。
▼あのフォントはなに?このフォントはなに? デザイナーに聞く!正しいフォント選び!(明朝編)
ちなみに、当社の本社がある横浜の馬車道駅も明朝体の駅標を使っています。
意味があって明朝体を採用しているようです。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
▼鉄道の「駅名標」にこだわってみました
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