日本の広告史、印刷史に残る1枚のポスター

コラム

 

高視聴率を維持しながら最終回を迎えたNHKの連続テレビ小説「マッサン」。主人公のマッサンのモデルは、ご存知のようにニッカウヰスキーの創業者竹鶴政孝ですが、マッサンの師でありながら生涯のライバルとなる鴨居商店、鴨居欣次郎のモデルは、鳥井商店、後の壽屋、サントリーの創業者鳥井信治郎です。
ドラマではその鴨居商店の「太陽ワイン」の宣伝用ポスター制作の経緯が描かれていましたが、実際1922(大正11)年に制作された鳥井商店の「赤玉ポートワイン」のポスターは、日本で初めて女性のヌード写真を使用したポスターとして、日本の広告史を語るうえで外すことのできない作品です。

モノトーンの写真で、女性の胸元のワインの部分だけが赤で強調されたビジュアルも当時としては画期的で、ドイツで行われた世界ポスター品評会で1位を獲得しました。

優秀なクリエーター、コピーライターによる作品

このポスターの制作に関わっていた2人のクリエーターのうち1人は井上木它 (ぼくだ)。
1937(昭和12)年に、今 も人気の角瓶のボトル デザインを手がけた人物として知られています。もう1人、ディ レクター的な役割で関わったのが、日本の広告界の鬼才であり、コピーライターの草分けといわれる片岡敏郎。
もともとデザイナーの片手間仕事だった広告文案づくりを専門職として確立したのが片岡敏郎でした。もちろん当時は、コピーライターという職名はなく文案家、後にアドライターと呼ばれるようになりました。片岡敏郎の仕事ぶりは長年にわたって、一世を風靡し続けた「タバコのみの歯磨スモカ」のウィットに富んだ広告に示されており、その作品群はいまだに新人コピーライターの教科書とされています。

印刷技術の変革

当時の製版・印刷はどうだったのか検証してみると、そこにも技術の変革期が見えてきます。
横浜と並んで欧米文化の窓口だった神戸で、市田幸四郎が、1914(大正3)年に同志とともに設立したオフセット印刷会社で、日本で初めてアメリカ製のオフセット印刷機を導入。
その後、印刷機を整備しながら、多色カラー印刷を模索する中で、アメリカで考案されたオフセット印刷の多色写真の製版法「HBプロセス」を取り入れます。
そして1922(大正11) 年、「赤玉ポートワイン」のポスターはこの技術を駆使して印刷されたものと伝えられています。撮影に延べ6日間費やしたというこのポスターは、広告表現、写真技術、製版・印刷技術におけるエポックメーキング的な作品となりました。

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